伝統かつ前衛という立場であり続けたいなあ…今月のパーソン・桂文珍(落語家)
[2010-10-27]
こだわりびとインタビュー Vol.7 桂 文珍 さん (落語家) モノ・コトを自分指標で取り組む人の価値観をのぞくインタビュー 「とにかく、落語がおもしろうてしゃあないんですわ」 メガネの奥の目を細めて、桂文珍は語りだした。いま、東西でおそらく一番忙しい落語家である。全国各地では独演会を待ち焦がれている大勢のファンがいる。その合間に、大阪のなんばグランド花月の舞台に出演。漫才やコント、新喜劇を楽しみに来ている演芸場のお客さま相手の高座は、じっくり聞いてもらって、想像力を使って頭の中に世界を描いてもらわねばならない落語家にとってはアウェイの場である。ところが、文珍はそんな高座が大好きなのだそうだ。 「もう、これ以上ないモニターの場所なんですよ。落語になんの興味もないお客さまの前に出て、おしゃべりをさせてもらうと、『よっしゃ。これはいける』とか『これはちょいと難しかったかな』という反応がビンビンわかるんです。ここで、ウケたネタは、もうどこでやっても大丈夫。オールマイティのネタです」 一昨年から文珍は全国四十七都道府県を回る「独演会ツアー」を始めた。 「日本全国には、まだまだ生の落語を聞いたことがない方々が大勢おられます。そこで、こちらから地元へお邪魔して『落語はこわくありませんよ』というキャンペーンをしようと思いまして」 ツアーの締めくくりは、なんばグランド花月での「十日連続独演会」。そのチケットは発売と同時に完売した。 そして、昨年度は第二回目の全国ツアーを敢行。今回のコンセプトは「落語ってほんとにおもしろいですよ」。 第二回目のフィナーレは、今年の四月。「人類史上初の快挙」と言われた千六百人収容の東京の国立劇場大劇場での「十日連続独演会」も満員札止めの大成功で打ち上げた。 「この次は東京ドームで…ですか?」 と水を向けると、ニコリと笑って 「いやいや、ヤンキーススタジアムで…(笑)。うそうそ。今度はお客様の体温がわかる隠れ家的な狭い空間でおしゃべりしとうなりましてね。狭い場所でしたら、ごまかしが効きません。生の自分を見てもらうという恥ずかしさがあると同時に、いつもは完成品の落語ばっかし聞いていただいてますけど、ときには未完成で荒削りの、文珍を見ていただいて、お客さまといっしょに、私も創る過程を楽しませてもらいたい…やなんて欲張りなことを考えてるんですよ。今まで目指してた、わかりやすい笑いだけでなく、ちょいととんがった笑いにも挑戦できそうですしね。伝統を護りつつ前衛であるという立場であり続けたいなあ」 爆笑王・桂文珍の落語は、これから進化するのか、それとも深化するのか? [プロフィール] 桂文珍(かつらぶんちん)。 一九四八年、兵庫県生まれ。六九年一〇月に桂小文枝(後の五代目文枝)に入門。全国四十七都道府県を回る独演会ツアーは来年一月から三年目に入る。その高座のCD、DVDも好評発売中。二〇〇九年に芸術選奨文部科学大臣賞受賞。 桂文珍大東京独演会 二〇一〇年四月、東京・国立劇場大劇場で開かれた「十日連続独演会」のすべてを収めたDVD。客席の興奮はもちろん、舞台裏の様子を収録した特典盤付き。 (取材・文/小佐田 定雄 撮影/武藤 奈緒美) こだわりびとインタビュー 過去の記事
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