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遥かなる北の大地 北海道への鉄路

[2010-08-09]

鉄道コラム「鉄学の道」/毎週月曜更新

乗りつぶし率99%の鉄道会社員が 
書き下ろす鉄分たっぷりコラム。

自社の貴重でレアな話題も 
時折飛び出します? 



 志賀直哉の有名な短編の一つに「網走まで」があります。主人公と子供連れの若い母親との東北本線の車中での短い邂逅を描いた小品ですが、会話の中でこの親子が網走まで旅するところだと分かり、それが題名になっています。

 小説は主人公が下車する宇都宮までで終わっていますが、主人公の網走までは大変だ、5日はかかるでしょう、との問いかけに母親が1週間かかると答える場面があります。この小説が書かれたのは今からちょうど百年前の明治43年、鉄道が網走に到達するのはその2年後です。上野から青森まででもほぼ一昼夜かかる時代ですから、国内であっても最終行程が徒歩か馬車になるような最果ての地への距離感は、フィンランドの最北部でも気軽にツアーで行ける現代からは想像できない壮大なものだったでしょう。

網走駅で発車を待つ特急「オホーツク」
網走駅で発車を待つ特急「オホーツク」(クリックで拡大)

 現在、東京から網走までは鉄道だと6時56分東京発の「はやて1号」からスーパー白鳥、北斗、オホーツクと特急を乗り継いで16時間です。12月には東北新幹線が新青森まで延長開業しますが、所要時間短縮効果は1時間以内とみられます。勿論、羽田を8時に出る便で女満別へ飛べば昼までに網走に着きますが、羽田~女満別の直行便ができたのが昭和55年、ジェット化されたのが昭和60年で意外と最近です。それまでは少なくとも札幌~網走間は鉄道が主流だったのです。

現在の北海道への旅は飛行機の独壇場 旭川空港に着陸するエア・ドゥのB767
現在の北海道への旅は飛行機の独壇場 旭川空港に着陸するエア・ドゥのB767(クリックで拡大)

青函連絡船接続の函館本線特急「北海」(昭和57年)
青函連絡船接続の函館本線特急「北海」(昭和57年)(クリックで拡大)

 北海道内と道外間の旅客輸送の分担比率は、運輸局の統計資料によると、平成19年度で航空が85%、鉄道は7%弱です。これが昭和50年度で見ると、航空が39%、鉄道(青函連絡船)が32%となり、ほぼ拮抗していました。輸送人員数でみると平成19年度の鉄道輸送量は昭和50年度の半分以下(169.5万人)になっていますが、航空は4倍(2100万人)になっています。航空機利用が身近になったことで北海道への観光が手軽になり、北海道への旅客数が大幅に増加していったわけです。

 鉄道が北海道への旅の主な手段であった時代、北海道は「遥かなる」土地でした。「網走まで」の時代から半世紀を経て昭和36年に北海道初の特急「おおぞら」が誕生し、東北本線特急「はつかり」と結んで東京~札幌間がようやく20時間を切るところまできました。その後電化などで徐々にスピードアップされましたが、どうしても行程のどこかが夜行になり、新幹線が使えた九州方面と比べてずっと「遠い」旅だったのです。それだけに北の大地への憧れが増幅され、昭和40年代には「カニ族」と呼ばれる横長の巨大なリュックを背負い学割の北海道周遊券を持った若者が夏場の青森行き夜行列車を埋め尽くしていました。昭和50年には東北・常磐線の青森行き夜行列車が特急8本・急行4本もあり、空路が主役に変りつつあったとはいえまだ利用者は多く、北海道の国鉄ダイヤは本州連絡を軸に組み立てられていました。

 はっきり状況が変わったのは、昭和55年10月の千歳空港駅(現:南千歳)開業からでしょう。翌年の石勝線開業と合わせ、北海道内のダイヤは札幌中心に組み替えられました。国鉄自身が、本州・北海道間の輸送は航空に任せると宣言したわけです。昭和63年には青函トンネルが開通して本州・北海道間の鉄道輸送人員は一時倍増しますがすぐ減少し、現在はトンネル開通前の輸送量レベルに戻っています。

 JR化後、北海道では札幌と函館・旭川・帯広・釧路など主要都市を結ぶ特急網を整備し高速化を進め、道外からの旅客は新千歳空港で受けて都市間列車を利用してもらう方針で徹底しています。新幹線乗り継ぎで東京~札幌間は10時間になっていますが、東北地方から道南へ向かう以外での鉄道利用者は、鉄道が好きであえて選択するという人だけでしょう。鉄道を選択した場合、言うまでもなく新幹線より人気のあるのは寝台特急「カシオペア」「北斗星」です。「乗るのを楽しむ」ために設定されたこの豪華寝台列車は、今も「遥かなる北の大地」への思いを盛り上げてくれます。

函館に着いた「北斗星」
函館に着いた「北斗星」(クリックで拡大)





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鉄学の道

山本浩(やまもとひろし)。南海電気鉄道勤務。学生の頃から鉄道好きの鉄道会社員の目線で鉄道業界のあれこれを書き下ろす。自社の貴重でレアな話題も時折飛び出します?

→  http://www.nankai.co.jp/

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