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山で思った海のこと

[2010-08-05]


「男の隠れ家」本誌では語ることの出来ない取材裏話や 
追加情報、はたまた個人的な四方山話まで、何の役にも 
立たないコラムを連載します。どんな奴が「男の隠れ家」を 
作っているのか、興味のある方はどうぞ寄ってらっしゃい。

(今週は TA→KO)


 現在発売中の「夏、山へ。」特集号、手にとって頂けましたでしょうか? 昨年に続き2回目の山特集ということで、今号はいきなり北アルプスが巻頭。そしてまた別の角度からもアルプスを見つめようと、「山案内人」の読み物コラムを作ってみました。

 明治時代になり、ヨーロッパで生まれた「アルピニズム」が日本にもやってきます。アルピニズムとは、いわば「山登りのための山登り」。それまでの日本人にとって「山」とは多く信仰の対象であり、あるいはまたその地で樵や猟をして暮らす人々の生活の場ではあっても、そうした登拝や狩猟といった具体的な目的をもたずに行く場所ではありませんでした。

 しかしこの時代になると、測量や鉱脈調査といった様々な分野を近代化せんがために雇われた外国人たちが日本の山に入るようになり、さらにヨーロッパで登山を楽しんでいた人々が、日本の山をアルピニズムという視線で「発見」してゆきます。有名なW.ウェストンは宣教師としてやってきたイギリス人ですが、彼が日本の山々に登り、その魅力を母国で発信したことにより、日本アルプスという山塊やその他の山々が知られるようになってゆきます。

 地図も登山ルートも何もなかった時代、そんな人々の山行を手伝えた人といえば自由に山を渡り歩く猟師くらい。今回ご紹介した上高地の猟師・上條嘉門次を初めとする一帯の猟師たちが「山案内人」となり、「登山」をしに来た人々を山頂へと案内しました。彼らの的確な状況判断や優れた登攀技術の助けがなかったら、もしかして「日本アルプス」という言葉もここまで一般化しなかったかもしれません。  

 それにしても、その圧倒的な移動のスピードを聞くと驚きますよー。同じ人間だろうか? というほど身体機能が別物! という話がたくさん出てきます。何百㎏の石を運び上げたとか、アルプスを越えて立山の方まで夜這いにいっても朝には帰ってきていた、などなど。
 
 そんな、ハイスピードで山を懸ける健脚や岩場での身のこなしは、好き嫌い向き不向きということではなく、生きてゆくために必要な身体機能だったんだろうなあと思いました。そこでふと思い出したのが、以前聞いた糸満漁師のはなし。

 沖縄・糸満は誇り高き漁師の町ですが、かつては生家を出された少年が集団で網元の家で寝起きし、船に乗せられ、泳げなかろうが腰に石を縛りつけられ無理矢理海に落とされては潜水技術を体得させられたそうです。今だったら色々な意味で絶対にできない指導方法だと思いますが、そうした生活を続ける結果、彼らの指や掌はどんなに釣り糸が食い込んでも傷つかぬ厚さに変わり、通常の人では絶えられない深度まで潜ってもつぶれない肺を獲得したそうです。体が "漁師仕様" にどんどん変化してゆく、というか。そうして、独り立ちをしていったそうです。 

 以前、そんな糸満漁師を取材したというカメラマンさんが言っていました。

「ああいう人は、現代では出来ないと思う。一生懸命働いたらなるっていうようなものじゃないですよ。精神的にも肉体的にも……強さのケタが違うというか…まぁ、僕らじゃまず無理ですねぇ(笑)」

 そうなんだなぁ、と今度は山でそんな事を考えていました。自分の主張や好き嫌いを実現できる社会である反面、こうした絶対的な忍耐のうえに出来てくる人間の強さなどは、やっぱり弱っていってしまうのだろうか。うーん、でも嫌だなその生活は……(笑)。

 関係ありませんが、今回この記事(山案内人のはなし)ほか同特集で執筆して頂いた角幡唯介さんが、過日、集英社主催の「第8回高健ノンフィクション賞」を受賞されました! 人跡未踏のチベット・ツアンポー渓谷の探検記で、11月には本になるそうです。「生きるか死ぬか、ぎりぎりの場所で自分が何を考えるのか知りたいんですよねー」と仰っていた角幡さん、上高地の猟師か糸満漁師みたいですね。こちらも早く読んでみたいです。皆さまもぜひ!

上/上條嘉門次翁が上高地・明神池の畔に建てた小屋。現在も山小屋として利用されています。 この炉端でイワナの塩焼きや骨酒を頂けます。
上/上條嘉門次翁が上高地・明神池の畔に建てた小屋。現在も山小屋として利用されています。 この炉端でイワナの塩焼きや骨酒を頂けます。(クリックで拡大)

下/嘉門次翁が使っていた猟銃とウェストンから贈られたピッケル。
下/嘉門次翁が使っていた猟銃とウェストンから贈られたピッケル。(クリックで拡大)

写真◎西田省三





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