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歌は世につれ 110年目の鉄道唱歌

[2010-07-27]

鉄道コラム「鉄学の道」/毎週月曜更新

乗りつぶし率99%の鉄道会社員が 
書き下ろす鉄分たっぷりコラム。

自社の貴重でレアな話題も 
時折飛び出します? 



 汽笛一声新橋を はや我が汽車は離れたり

 誰もが知っている鉄道唱歌の出だしです。大和田建樹が作詞し、明治33年に三木書店から売り出されたこの曲はたちまち大ヒットになり、今日まで延々歌い続けられています。第1編の東海道線版は新橋から神戸までの66番でしたが、この年のうちに山陽・九州編、奥州・磐城編、北陸編、関西編など計5編が売り出されました。

鉄道唱歌のスタートはこの新橋駅 旧新橋駅復元駅舎
鉄道唱歌のスタートはこの新橋駅 旧新橋駅復元駅舎(クリックで拡大)

 全部合わせると334番まで(通し番号は付いていませんが)あり、長い間「日本一長い歌」でもありました(カラオケで歌ったら1時間以上かかるので、大ヒンシュクを買いそうです)。しかも全国規模ヒット曲の草分け的存在であり、当時オリコンがあったら10週連続チャート1位確実、というほどのものだったようです。なお、曲は数種類作られたそうですが、現在残っているのはそのうちの多梅稚が作曲した一つだけで、後は忘れられたようです。

 歌詞の内容は、単に鉄道風景を歌っただけでなく沿線の名所旧跡や歴史も丹念に拾い上げており、「地理教育」の要素もあったとか。いわば「歌う旅行地理ガイド」といったもので、大ヒットになった理由もそのあたりにあるのでしょう。

東武博物館のSL5号機 鉄道唱歌の頃の東海道線の主力機関車はこれと同タイプだった
東武博物館のSL5号機 鉄道唱歌の頃の東海道線の主力機関車はこれと同タイプだった(クリックで拡大)

 もっとも、明治の風景ですから今ではピンとこない歌詞もあります。1番の後段は「愛宕の山に入り残る 月を旅路の友として」ですが、愛宕の山とは、新橋駅からほぼ真西1kmほどにある港区愛宕一丁目界隈です。大正期にNHKの初代放送センターができる場所ですが、山というより丘のレベルで、今は完全に市街に埋もれて分かりません。勿論ビルの陰になって新橋からは見えません。

 3番では品川から「海のあなたにうす霞む 山は上総か房州か」と東京湾が一望できたようですが、駅前の高層ビルの最上階からでさえ良く見えません。しかしながら新橋から幾らも走らないうちにこうした景色が望めた明治の車窓は、ずいぶんと豊かで楽しいものだったでしょう。当時の車両は未だに「マッチ箱」客車が多く、木製の硬い座席に何時間も揺られる苦痛を美しい風景で慰めながらの旅とは、どんなものなのでしょうか。風景というより通過していく物体しか車窓に映らない時速300kmの車中からは想像のつきにくい世界です。

 鉄道唱歌は本編の他に、あちこちで亜流が作られました。東京市電の「電車唱歌」といったものもあります。昭和に入っては「新鉄道唱歌」が鉄道省とNHKでそれぞれ作られています。NHK版の1番の歌詞は「帝都を後に颯爽と 東海道は特急の 流線一路富士・桜 燕の影もうららかに」と、初代の歌詞に比べると随分格好良くなっています。ちょうど流線型機関車が登場して特急の先頭に立っていた鉄道の戦前最盛期にあたり、何か肩で風切るような、世界の一等国レベルまで到達した(と思った)気負いのような、そんな感じがなんとなく伝わってくるようです。

 戦後になって「新鉄道唱歌」は忘れられていきますが、初代「鉄道唱歌」は名曲として残ります。高度成長期から分割民営化まで、国鉄では電車の特急・急行の車内放送用チャイムに使っていたので、旅に出るたび鉄道唱歌のチャイムが耳に入り、旅情を掻き立てるサウンドの一つになっていました。明治には歌詞で旅情を味わったのでしょうが、今はメロディだけでも充分かもしれません。

 ところで、334番まである鉄道唱歌の最後に出てくる終点の駅はどこでしょうか。実はJRの駅ではなく、南海電鉄の難波駅です。「なんで?」と思われそうですが、明治33年はまだ鉄道国有化の前、東北線も山陽線も私鉄の時代です。南海も有力な私鉄の一つで、鉄道唱歌第5編では関西鉄道・参宮鉄道・南海鉄道など関西の主な鉄道が対象になっていたのです。因みに、334番目、即ち第5編64番の歌詞は次のようなものです。

  治まる御代の天下茶屋 騒がぬ波の難波駅

  いさみて出づる旅人の 心は後に残れども 

鉄道唱歌の終点 現在の南海電鉄難波駅
鉄道唱歌の終点 現在の南海電鉄難波駅(クリックで拡大)





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鉄学の道

山本浩(やまもとひろし)。南海電気鉄道勤務。学生の頃から鉄道好きの鉄道会社員の目線で鉄道業界のあれこれを書き下ろす。自社の貴重でレアな話題も時折飛び出します?

→  http://www.nankai.co.jp/

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