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電車のデッドヒート? 複々線の醍醐味

[2010-05-31]

鉄道コラム「鉄学の道」/毎週月曜更新

乗りつぶし率99%の鉄道会社員が 
書き下ろす鉄分たっぷりコラム。

自社の貴重でレアな話題も 
時折飛び出します? 



 F1のサーキットでのスリリングな抜きつ抜かれつは、クルマ好きにとっては最高の見ものでしょう。F1には到底及びませんが、東京と大阪の複々線区間では電車同士の走行中の追い抜きを強烈なスピード感をもって味わうことができます。

 もちろんダイヤ通りに走っているだけなのですが、大阪ではすぐ隣を走る特急列車を新快速電車が全速でジリジリ抜いていくシーンも見られ、電車好きにとってはたまらない醍醐味です。

昭和8年にできた複々線区間を走る京阪7000系特急
昭和8年にできた複々線区間を走る京阪7000系特急(クリックで拡大)

 最初の本格的な複々線と言えるのは、大正3年、東京駅が完成して京浜間に電車運転が始まったときの東京~横浜間でしょう。阪神間の複々線も戦前に完成していましたが、一気に増えたのはやはり輸送量が激増した高度成長期で、「首都圏5方面作戦」により東海道横須賀・東北に加え常磐・中央・総武の各線が複々線化されています。

 私鉄での最初の複々線は、大正15年に完成した南海の天下茶屋~粉浜間です。この複々線は前後に伸ばされ、昭和13年には難波~天下茶屋間の高架複々線の完成で難波~住吉公園が複々線になりました。

 さらに大阪では、昭和8年の京阪電鉄蒲生信号所~守口間をはじめ、阪急の梅田~十三間の3複線、近鉄上本町~布施間の複々線などが昭和30年代までに開通し、さすが私鉄王国といわれるだけの豪快な走行風景が見られました。

3列車並走も見られる阪急梅田~十三間の3複線区間
3列車並走も見られる阪急梅田~十三間の3複線区間(クリックで拡大)

 しかし関東では戦前には私鉄の複々線は作られず、輸送力が逼迫した昭和40年代になって初めて次々と着手されました。最初にできたのは東武の北千住~竹ノ塚間で、昭和49年のことです。その後順次延伸して平成13年に北越谷まで完成し、私鉄最長の複々線になっています。

東武の私鉄最長複々線区間を走る相互直通の東急5000系
東武の私鉄最長複々線区間を走る相互直通の東急5000系(クリックで拡大)

 現在は京急以外の関東各社が複々線を持っていますが、沿線が密集市街地になってからの工事は用地確保にも施工にも時間がかかっており、小田急の代々木上原~向ヶ丘遊園間は着手後30年以上を経てやっと最終段階に入ったところです。

 複々線の構成は大きく分けて「線路別複々線」と「方向別複々線」の2種類あります。「線路別」とは緩行線の上下線と急行線の上下線を並列に敷くもので、中央・総武線や常磐線がそうです。

 既存の複線に新しい複線を並べるだけなので工事は比較的単純ですが、緩行線と急行線を乗り換えるときは別のホームに移動することになるので、乗客からは不評です(乗換えが不便なため急行に乗客が集中し過ぎるのを防ぐ効果はあります)。

 「方向別」は同じ方向行きの緩行線と急行線をセットにして並べるもので、緩行線と急行線が同じホームで乗り換えられて便利ですが、施工はやや複雑になります。JR西日本の新長田~草津間や多くの私鉄がこの方式です。

 また、方向別には内側線が緩行線のもの(東武、JR西日本)と外側線が緩行線のもの(京阪、小田急他)があります。内側が緩行線だとホームは島式1面ですみますが、急行線はホームが中にある分外側に膨らむのでカーブができます。その代わり緩行線に複々線内折り返し系統がある場合、急行線を支障せずに折り返せます。

 外側が緩行線の場合はホームが2つ必要ですが、線路の外にホームを作るので用地が節約でき、急行線も緩行線も真っ直ぐに敷けます。こうした得失を考慮して、各社の事情によりどれかを選択しているわけです。

 南海は難波~岸里玉出間が南海線と高野線の線路別、岸里玉出~住ノ江間が方向別という変則的な形です。もともとは全部が線路別で、高野線が南海線難波~岸ノ里(現:岸里玉出)間の緩行線に乗り入れる形だったのですが、高野線の輸送量増加で南海線の緩行線との共用が難しくなり、昭和45年に難波~岸ノ里間の緩行線を高野線専用とし、同時に岸ノ里以南を方向別に切り換えたものです。

海難波~岸里玉出間の線路別複々線 新今宮付近
海難波~岸里玉出間の線路別複々線 新今宮付近(クリックで拡大)

 輸送力が常に不足していた時代には、複々線化は輸送力増強の究極の処方箋でした。しかし乗客増が頭打ちになった今はサービスの質的向上に重心が移っており、複々線をどう活かしていくかが今後の課題です。





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鉄学の道

山本浩(やまもとひろし)。南海電気鉄道勤務。学生の頃から鉄道好きの鉄道会社員の目線で鉄道業界のあれこれを書き下ろす。自社の貴重でレアな話題も時折飛び出します?

→  http://www.nankai.co.jp/

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