「ビートルズでメシが食いたい」から始まった−ファンの心を保ち続ける音楽誌編集者のプロ魂 - 藤本国彦(ビートルズ愛好家)
[2009-11-18]
嫌いな曲は、213番目に好きな曲「不世出のバンド」と語られ、神格化するビートルズを、藤本氏は良い意味で “偉大” とは思っていない。 「ビートルズが神だとかジョン・レノンが神だとかは、まったく思っていません。むしろ、もっと身近な存在。崇めたてまつるのではなく、例えば周りから『ビートルズはいいよ』と勧められても、好きになれなければはっきり口に出すのがいい。好き・嫌いをはっきり出せないのは窮屈で、つまらないじゃないですか」 人生の大半を注いだ対象だったとしても、信者になる必要はない。そのニュートラルな考え方はビートルズの影響によるところが大きいのか、嫌いな曲には腹も立てる。 「もちろん、ビートルズでも嫌いな曲はありますよ。『ホールド・ミー・タイト』とか『ホワット・ユー・アー・ドゥーイング』とかは嫌いですね(笑)。なんでこんな駄作作ってるんだ! とポールに対して思うんですよ。こういう話を友人にすると、逆にたしなめられますが。『嫌いじゃなくて、213番目に好きな曲だろ?』って(笑)」 生き方はジョン、音楽はポールから長時間連続で演奏を聴いても、各国版のCDを買い集めても、傾倒しすぎず自然体で4人の音楽を愛する藤本氏。個々のメンバーに対する印象は違うのだろうか。 「ビートルズの中で誰かひとり好きな人を選ぶのは難しいんですが、生き方ではジョン・レノンの影響が大きいですね。ひとつは物事をはっきり言うということ。政治的な発言でアメリカでも睨まれていた時期があったぐらいですから。それと人の心を掴むのが上手い。『ギヴ・ピース・ア・チャンス』というスローガン的な曲名にも、コピーライター的なセンスがある。言葉が上から目線じゃないんですよ。インタビューを読んでいても、オチャメで面白いですよね」 「音楽的にはポールが一番好きですね。よく聴くのはポールの曲かもしれない。ジョン・レノンは、とくにソロ・アルバムは真面目に聴いちゃうんですよね。ジョージ・ハリスンは、あのたたずまいが大好きです。リンゴ・スターはいちばん年上で、最後に入ったこともあるけれども3人のまとめ役で、半歩下がっていて、ある種の緩和剤的な役割というんですか。そういうところがすごいなと思います」 「ビートルズの生き字引」と呼ばれることについて、本人はどう感じているのか尋ねてみた。 「自分にはそんな意識はまったくない。単純にビートルズが好きなだけなんですよね。周りの人と自分を比較するなんてこともないですし。ビートルズと同じ時代に生き、ビートルズを一緒に楽しめる仲間がいる。これって本当に運が良かったんだな、と思います」 評価が一人歩きし出すと、本来自分が好きなことに対する軸を見失っていく専門家は多くいる。どれだけ詳しくなっても受け手の立場を忘れない氏の姿勢は、作り手として何よりも大事なこと。この目線で取り組む本ゆえに、CDジャーナルは長年読者を惹き付ける力を持つのだろう。 「一冊、一生懸命作ったら、結果は委ねます。それは売り上げかもしれないし、内容かもしれません。作ったものに満足することはほとんどありませんが、自分にできることは懸命にやる。その積み重ねですよね。先のことを考えて生きていくというよりも、自分の中には “日々楽しく” という思いが基本にあって。その思いがあるからこそ先につながっていく、という姿勢でいます」 屈託なく語るが、苦労を苦労と思わず楽しむことのできる人間は、やはり強い。 (取材・文/相馬 学 撮影/菊池 友理) こだわりびとインタビュー 過去の記事
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