blog banner

筆記具の顔「ペンクリップ」を味わう。(後編)

[2009-09-14]

カッコいいクリップとはこういうもの


 どこかで以前にもお話をしたことがありますが、私は文房具の工業製品としての側面に興味を持っているので、製品の評価を価格帯で区別することをあまりしていません。たとえば「高いから良い」とは思いませんし、安い物を選択の対象から外すことも無いです。百円台の筆記具にも工業製品としてのワザが隠れていないか、一生懸命探しています。3回に分けて続けてまいりましたクリップのお話。そのトリを取るのは、手ごろな価格の製品、ロットリングのXONOXシリーズです。ゾノックスと読みます。

ok090913d.jpg
ロットリングのゾノックス(廃番製品)(クリックで拡大)


 ゾノックスは、もともと高級な製図用品を主力としていたロットリング社が、ビジネスあるいは家庭向けに製造した一般筆記具の意欲作でした。今から十年以上前のお話です。発表当時は二百円台の(繊維質ペン先の)細字ペン、細字と極細字のローラーボール、蛍光マーカーなども揃えた大きなラインアップでした。その後、お絵書き用途を想定した少し高価な細字ペン「グラフィック」も追加。しかしロットリングの思い通りにはゆかなかったのか、残念ながらゾノックスの名前はカタログから無くなってしまいました。

 じつは私が「信頼文具舗」を始めたきっかけのひとつが、このゾノックスだったのです。インターネットの普及が途上で、文房具を手にする方法がほとんど無かった地域の人にもゾノックスを手にしてもらいたいと思い、この製品を仕入れ、オンラインショップを開いたのです。それだけ私はこの製品に想いを寄せたというわけです。ゾノックスの見どころは各所あるのですが、ここではペンクリップだけに注目してみます。

 数百円台の筆記具では、書き味の良さは勿論のことながら、生産性とコストの管理が大きな課題となります。それらを背負うと、おのずとクリップ周辺の作りも限られた範囲に入ってしまいます。ところがゾノックスのペンクリップ周辺は、私の中ですでに出来上がっていた考えを超え、精密な造形と作り込みを見せてくれたのです。

 まずペンキャップ側面には、平板なツヤ有り樹脂に立体感を持たせ、かつ見た目の引き締まり感を付加するような、8本のアクセント・ライン。その部分の真上から基台を立ち上げ、スリムな直線形状の金属製クリップが固定されています。基台はクリップの幅よりも極めて細く絞り、クリップが空中に浮遊しているかのような効果を作り上げています。また、クリップの金属部品には、わざわざ細いスリット(スキマ)を空け、金属の見た目の重たさを軽減させると共にクリップの全長をさらに伸びやかに見せる効果を生んでいます。これらの結果、各所は直線的な処理になっていますが、キャップ後端の丸い部品が硬さを緩和して、全体のバランスを取っている感じです。

 ゾノックス、ひとことで言うならば「カッコいい」。一般筆記具にカッコいいなんて思わせるものは滅多に無くて、そこが凄いところなのです。こうした細部を積み上げてゆく手法は、現代のプロダクツ・デザインの流れとは違う方向にあるのかもしれませんが、少なくとも安価な筆記具でここまで手を掛けて作られていることを評価し、なにか熱いものを感じた私だったのであります。

 以上、三編にわたり合計10本のペンクリップを見てまいりました。別に筆記具界全体を俯瞰して選んだわけではなく、手元にあるものに順番にツッコミを入れただけですが、ペンクリップのみに注目しても筆記具の楽しみどころがいっぱいあることをお分かりいただけたのではないでしょうか。

 私たちユーザーが、この部分を大切に思うようになれば、今後出てくる製品について、メーカーさんも真剣に考えてくださるのではないかと思います。べつに過度に凝る必要はありません。よく考えられつつも、シンプルで美しいペンクリップが生まれてくることを願っています。





 和田哲哉の「文房具に寄す」過去の記事
筆記具の顔「ペンクリップ」を味わう。(中編)
筆記具の顔「ペンクリップ」を味わう。(前編)
香りが楽しみ!? メンディングテープの思い出
新刊がでました。「文房具の足し算」
ノートの裏側、どうしてます? …

→ 和田哲哉の「文房具に寄す」記事一覧へ

和田 哲哉

文房具をテーマにしたサイト「ステーショナリープログラム」主宰。オンラインショップ「信頼文具舗」店長。常にユーザーの視点に立ち、良質な文房具の普及に努めている

→  http://www.wada-denki.co.jp/bunguho/shop00.html

男の隠れ家 4月号
男の隠れ家4月号 
本のある空間、本と過ごす時間

発見がある 価値ある新刊書店、古本夢空間、図書館はワンダーランド、本と酒と珈琲のある空間ブックカフェ&ライブラリーバー ほか

 



注目の情報